入居者が行方不明・夜逃げした場合の対応

1 行方不明・夜逃げの場合の荷物の無断廃棄はNG!

Q
当社は不動産管理会社です。
当社管理のアパートの入居者が行方不明になりました。たびたび家賃を滞納していた方です。
現時点で、音信不通になって3か月経ち、家賃も未納です。
オーナー様からは裁判だと費用がかかるので、当社で荷物を処分してほしいとの要請があります。入居者は借金もあったようです。
当社は、入居者が荷物の所有権を放棄して夜逃げしたと判断しました。
部屋の荷物を処分して、鍵を交換しようと思います。法律上問題はありますか?
A

違法と思われます。

そのような措置を取った後に、賃借人が万一帰宅してしまうと、違法な自力救済と判断される可能性が濃厚です。

この場合、貴社だけでなく、関与した貴社の従業員個人や、指示をしたオーナー様も賠償義務を負うリスクがあります。

解説

賃借人の占有を排除して、賃借物内の荷物(動産)を撤去・処分することは違法な自力救済と評価されます。

賃借人が荷物の所有権を放棄したのであれば、違法な自力救済とは評価されません。しかし、単に音信不通となっただけでは、所有権放棄の有無を認定できません。

賃借人が急病で入院してしまい、賃借人の家族も本人と連絡が取れないという可能性もゼロではありません。

それにもかかわらず、荷物を撤去・処分し、その後に賃借人が帰宅した場合、貴社(不動産管理会社)は所有権放棄の有無を誤解したという扱いになるでしょう。

裁判例の傾向によると、貴社の誤解には過失があったとされ、違法な自力救済を行ったことを理由に損害賠償義務を負うことになります。

金額は

  1. 廃棄した荷物の時価総額
  2. 慰謝料
  3. 賃借人の弁護士費用

の合計となります。

事案によっては高額の賠償が認められることもあります。

また、賠償請求を受けた場合、ご自身も弁護士に依頼することになると思われます。その場合の弁護士費用も高額となるリスクがあります(詳しくは本ウェブサイト「自力救済行為を行った場合の損害賠償」 をご覧ください。)。

音信不通を理由に実行した自力救済が違法とされた裁判例を紹介します。参考にしてみてください。

  • 大阪高裁昭和62年10月22日判決
    賃借人が約6か月賃料を滞納したまま音信不通となったケース。
    賃貸人が残置物を無価値物と考え廃棄したところ、後日、賃借人側が合計600万円の損害賠償を請求。裁判所は違法な自力救済と判断し、損害賠償を13万円の範囲で認容。
  • 浦和地裁平成6年4月22日判決
    賃借人が約6か月賃料を滞納したまま音信不通となったケース。
    賃貸人が顧問弁護士に相談の上、家財を廃棄。
    裁判所は、違法な自力救済と判断し、賃貸人及び顧問弁護士への損害賠償を元本合計267万円の範囲にて認容。
    なお、賃借人は海外で逮捕されたため、一時、行方不明であった。
  • 東京地裁平成24年9月7日判決
    賃借人が賃料及び家賃保証会社への求償金の支払を約6か月間怠った。
    家賃保証会社が再三連絡を求める書面をドアに挟み、賃借人の携帯電話に繰り返し電話をかけた。しかし、賃借人はこれを黙殺。家賃保証会社は、無断退去と考え、鍵を取り替え、荷物を処分。
    裁判所は、「まれに見る悪質な賃借人であると非難されてもやむを得ない不誠実な対応」と賃借人を非難しつつも、家賃保証会社及びその代表者個人への損害賠償を元本合計55万円の範囲で認容。

2 賃貸借契約書には残置物を処分できると書いてありますよ?!

Q
先ほど質問した不動産管理会社です。
賃貸借契約書には、賃借物の明渡後に残置物がある場合には賃貸人が残置物を自ら処分できるという条項があります。
オーナー様からは、この条項があり、賃借人が貸室から退去したまま3か月が経過しているのだから、荷物を処分しても構わないのではないかと言われています。
この条項がある以上、荷物の処分は適法だと思います。いかがですか?
A

ご指摘の条項が存在したとしても、賃借人が貸室に戻ってきてしまった場合、荷物の処分は違法な自力救済と判断されるでしょう。

絶対にやめてください。

解説

自力救済は、法的手続によったのでは救済が不可能・著しく困難といった、やむを得ない特別の事情がある場合に限り、必要限度で認められるに過ぎません(最高裁昭和40年12月7日判決)。

賃借人が行方不明になったとしても、法的手続にて明渡が可能です。確かに、法的手続の場合、時間がかかり、費用も発生するという不利益を被ります。

しかし、当該不利益を理由として、法的手続によったのでは救済が不可能・著しく困難という評価をすることは難しいでしょう。

そして、自力救済を原則禁止するというルールは強力なものであり、これに反する合意・約束は効力を生じません。そのため、単に行方不明になっただけでは、この種の自力救済条項が存在したとしても、自力救済は違法とされるでしょう。

裁判例の多くも、自力救済条項の有効性を否定しています。

例えば、公序良俗違反(民法90条)を理由に無効としたものとして、東京地裁平成29年1月25日判決などが挙げられます。

3 覚悟を決めよう!行方不明・夜逃げの場合には訴訟提起・強制執行

Q
先ほど質問した不動産管理会社です。
入居者が行方不明・夜逃げの場合には、裁判を行う必要がありますか?
費用もかかるでしょうし、オーナー様への説明が難しいのですが。
A

訴訟提起の上、強制執行を行うべきです。

弁護士がオーナー様に直接ご説明を行います。

解説

先に挙げた裁判例のとおり、賃借人が音信不通の場合であっても、荷物を無断で処分するのはリスクが大き過ぎます。

明渡しを実現するためには、訴訟提起の上、建物明渡の強制執行を行うべきです。

もちろん、費用は決して安くはありません。

しかし、放置すれば滞納賃料の金額が増大します。

覚悟を決めて、訴訟を提起し、強制執行を行うべきでしょう。

不動産管理会社の方だけでは、オーナー様へのご説明は難しいかもしれません。

オーナー様を弁護士にお繋ぎいただければ、弁護士がオーナー様に直接、ご説明いたします。

※2023年1月執筆当時の情報を前提としたものです。

本記事の記載内容に関して当事務所・所属弁護士が何らかの表明保証を行うものではなく、閲覧者が記載内容を利用した結果について何ら責任を負いません。

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