滞納者が判決に従わずに退去しない場合

本ウェブページでは、建物明渡しの強制執行について、Q&A方式でご説明を行います。

なお、本ウェブサイトでは、賃料を滞納した賃借人を退去させるまでの流れを説明したウェブページもご用意しておりますので、適宜ご参照くださいますようお願いいたします(「賃料滞納による建物明渡し請求の流れ」)。

Q
当社は不動産管理会社です。
このたびオーナー様のアパートの家賃未納の入居者に対し、建物明渡しを命じる判決が言い渡されました。しかしながら、入居者は判決に従わず、建物から退去しません。
どのように対処するべきでしょうか?
A

強制的にかつ合法的に賃借人を退去させるためには、建物明渡しの強制執行を申し立てるべきでしょう。

Q
建物明渡しの強制執行とは、どのような手続ですか?
A

賃借物に対する賃借人の占有を解き、賃貸人に占有を取り戻し、建物明渡しを強制的に実現させる手続です。以下の流れで進行します。

(1)強制執行申立書などの必要書類提出

強制執行は、裁判所に強制執行申立書や判決正本、送達証明書などの必要書類を提出することによって開始します。

(2)明渡しの催告

裁判所の執行官が、立会人と執行業者と呼ばれる民間業者を伴って貸室を訪問します。賃借人に猶予期間を区切って自主的な退去を促し、最後のチャンスを与えます。これを「明渡しの催告」と言います(民事執行法第168条の2第1項)。

(3)明渡しの断行

退去に応じない場合、執行官は立会人と執行業者を伴って再度貸室を訪れます。執行官は賃借人を退去させ、執行業者に指示して荷物を搬出し、鍵を交換します。これは「明渡しの断行」と呼ばれます。この時点で明渡しは合法的かつ強制的に実現できたことになります。

(4)目的外動産の売却期日

搬出された荷物は目的外動産と呼ばれます。目的外動産は、搬出後一定期間保管されます。その後、目的外動産は売却期日で売却されます。賃貸人が廉価で買取り、執行業者に処分してもらうのが通例です。

Q
強制執行で賃借人を退去させるためには、どの程度の期間が必要ですか?
A

一般的には、強制執行申立書などの必要書類提出から1か月半以内に退去が実現します。各手続の段階で要する期間は概ね以下のとおりです。

①強制執行申立書などの必要書類提出から、明渡しの催告まで

2週間以内(民事執行規則154条の3第1項)

②明渡しの催告から明渡しの断行まで

原則3~4週間以内(民事執行法168条の2第2項参照)

Q
建物明渡しの強制執行を行うと高額の費用を支払う必要があると聞いたことがあります。
どのくらいの費用がかかるのでしょうか?
A

残念ながら、強制執行には多額の実費がかかります。内容は概ね以下のとおりです。

本ウェブサイトの「建物明渡の強制執行に要する費用」や「建物明渡の弁護士費用と実費のシミュレーション」もご参照ください。

強制執行申立書などの必要書類提出時に必要な実費

執行文付与申立の印紙代 300円
送達証明書取得の印紙代 150円
裁判所に納める予納金 原則7万円(千葉地裁の場合)

明渡の催告を実施した場合の実費

執行技術者立会費用・鍵技術者費用 5万円程度

明渡の断行を実施した場合の実費

1ルームマンションの場合 20万円程度
ファミリー向けのマンションの場合 40万~60万円程度
2階建の一戸建の場合 70万円~100万円程度

※明渡の催告の後に賃借人が自主退去すればこの費用は不要となります。

目的外動産の保管を執行業者の倉庫で行った場合

残置物の保管費用、売却期日における執行業者の立会費用など 合計10万円程度

※明渡の催告の後に賃借人が自主退去すれば、この費用は不要となります。

※明渡の断行に至った場合であっても、賃借人が現場で所有権放棄の意思を表明した場合には、目的外動産を保管することなく、処分することもあります。その場合、ここに挙げた費用は不要となります。

また、警備上問題が無いといった事情があれば目的外動産を賃貸物件内部で保管することがあります。その場合は残置物の保管費用が不要となります。

以上に挙げた費用は荷物の量などによって上下します。必ずしもこのとおりとはなりません。

弁護士に依頼する場合には、別途、弁護士費用が必要です。オーブ法律事務所の弁護士費用は「弁護士費用(建物明渡)」をご覧ください。

Q
賃借人に建物明渡訴訟を提起しました。
裁判所にて、賃借人が2023年4月28日までに建物を明け渡すという内容の裁判上の和解が成立しました。
しかしながら、賃借人は和解に従わず、2023年4月28日を経過しても、入居を継続しています。
建物明渡の強制執行を行うことはできますか?
A

裁判上の和解に賃借人が従わない場合も、建物明渡しの強制執行は可能です。

専門用語を使いますが、建物明渡しの強制執行申立てには、債務名義が必要です。

債務名義とは、強制執行により実現されるべき請求権の存在及び内容を公証する文書であり、民事執行法第22条以下に規定されています。

そのうちの一つが先に紹介した確定判決です。

そして、建物の明渡しを内容とする裁判所の和解を記録化した和解調書も債務名義となります(民事執行法第22条第7号)。

そのため、賃借人が裁判上の和解に従わず、建物を明け渡さない場合も、強制執行にて対応することになります。

Q
賃借人に建物明渡しを命じる判決が言い渡されました。
判決は賃借人への送達から14日経過すれば確定するとのことですが、判決の確定を待たずに強制執行を始めることはできますか?
A

建物明渡しを命じる判決に、仮執行宣言が付されていれば、判決確定を待たずに強制執行申立てが可能です(民事執行法第22条第2号)。

仮執行宣言とは、未確定の判決に確定したのと同様にその内容を実現できる執行力を付与する裁判のことを言います。控訴によって覆る余地があるのに仮の強制執行を認めてしまうのです。

仮の強制執行を行った後、控訴によって判決が覆った場合、強制執行を行った者は回収した金銭を返還し損害を賠償して原状回復を行うことになります。

裁判所は建物明渡の判決について仮執行宣言を付さないと言われております。何故なら、仮の強制執行を行い建物明渡が行われた後、判決が控訴によって覆った場合、原状回復が難しいとされるからです。

しかし、賃料未払の事案で賃借人が賃貸人の主張を争わない旨裁判所で述べた場合などでは、裁判官も控訴は無いだろうと考えるのか、仮執行宣言を付すこともあります。このような場合であれば、判決確定を待たずに強制執行申立てが可能です。

Q
裁判を行わなくとも、公正証書を用いて賃借人に退去を約束させれば、建物明渡の強制執行を行うことはできるのでしょうか?
A

公正証書では建物明渡の強制執行を行うことはできません。

公正証書は、金銭支払を目的とする強制執行の債務名義になり得ますが、建物明渡の強制執行の債務名義とはならないとされています(民事執行法第22条第5号)。

※2023年1月執筆当時の情報を前提としたものです。

本記事の記載内容に関して当事務所・所属弁護士が何らかの表明保証を行うものではなく、閲覧者が記載内容を利用した結果について何ら責任を負いません。

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