賃貸借契約の連帯保証人への請求について

未納賃料の回収にあたっては連帯保証人への請求が非常に重要です。

2020年4月1日施行の改正民法により、契約書の形式や、契約締結時及びそれ以後において注意すべき場面が増えました。本ページでは、賃貸借契約の連帯保証人への対応にあたって、主な注意点を紹介しています。

なお、本ページは、2020年4月1日施行の改正民法が適用される連帯保証契約を前提とした解説となっています。

1 連帯保証人が個人の場合、賃貸借契約書に極度額を設けましょう

Q
当社は複数の事業を展開しています。アパート賃貸事業も行っています。
手が十分に回っておらず、賃貸借契約書は2015年頃に作成したひな形を利用しています。
連帯保証人に請求する際、不都合はありますか?
A

2015年頃作成の賃貸借契約書のひな形を利用してしまうと、連帯保証人への請求が不可能となるリスクが高いです。今すぐ契約書の書式を見直しましょう。

2020年4月1日以降に締結又は合意更新される賃貸借契約において、個人を連帯保証人とする場合、極度額を定めなければ、賃借人の債務を保証する連帯保証契約は無効となります(改正民法第465条の2第2項)。

極度額とは、かみ砕くと、連帯保証人が負担する金額の上限のことです。

アパートの賃貸借契約では、個人が連帯保証人となっている例が多いでしょう。また、2015年頃の賃貸借契約書のひな形では、極度額の条項が設けられていないでしょう。

2015年頃の賃貸借契約書のひな形を使用すると、連帯保証人への請求ができなくなってしまうリスクがあります。

なお、家賃保証会社などの法人が連帯保証人になる場合、極度額の規制はありません。

2 極度額が低額過ぎないか注意しましょう

Q
当社の賃貸借契約書は、個人の連帯保証人の極度額を賃料12か月分と定めております。
賃料未納を理由とした貸室の明渡しを行った場合、①契約解除までの未払賃料、②契約解除後から明渡しまでの損害金、③強制執行に要する弁護士費用以外の実費、④原状回復費用、の全てを連帯保証人に支払ってもらうことはできるのでしょうか?
A

極度額を賃料12か月分と設定した場合、ご質問の①~④の費用は賄い切れないと思われます。

一度取り決めてしまったものは仕方ありませんが、今後の連帯保証契約については、極度額を増額することを検討するべきでしょう。

建物明渡の強制執行を行って明渡しを実現した場合、それだけで弁護士費用以外の実費が、1ルームマンションで40万円以上、ファミリー向けマンションで60万円~80万円以上、2階建の一戸建で90万円~120万円以上を要する可能性があります。

①契約解除までの未払賃料、②契約解除後から明渡しまでの損害金、④原状回復費用を加えると、賃料12か月分を優に超えるでしょう。

極度額を賃料12か月分と設定してしまうと、これ以上の金額を連帯保証人に請求することはできません。

極度額の金額については、各業者の考え方次第です。ただ、建物明渡しを行う場合の損失を補填することを重視するのであれば、極度額は少なくとも賃料24か月分以上に設定した方が良いでしょう。

賃借人の自殺などの極限の事例まで想定しますと、賃料24か月分でも足りないくらいです。

なお、賃料滞納発生後、対応に尻込みしていますと、未納の賃料額が膨らんでしまい、賃料24か月分の極度額でも賄い切れないかもしれません。建物明渡しは早期に決断するべきでしょう。

 

3 賃借人が死亡した場合に極度額が確定することに注意しましょう

Q
私は大家業を営んでいます。このたび、賃借人が亡くなりました。
奥様が相続の上、賃貸借契約を継続したいとのことでした。元々、個人の方が連帯保証人になっていましたが、改めて連帯保証契約を締結し直す必要があるのでしょうか?
A

賃借人が死亡した場合、連帯保証契約を締結し直す必要があるでしょう。

個人の連帯保証人の極度額は、賃借人死亡時に元本が確定します(改正民法465条の4第1項第3号)。

言い換えると、個人の連帯保証人は、賃借人死亡後に発生した賃料滞納などの責任を負いません。

あくまでも死亡時までに発生した未払賃料や汚損・破損等しか責任を負わないのです。

死亡以後に発生した債務については責任を負いません。

そのため、賃借人が死亡した場合には、改めて連帯保証契約を締結し直す必要があるでしょう。

4 連帯保証人死亡時にも極度額が確定することに注意しましょう

Q
直近2か月で入居者が家賃を支払っていません。
連帯保証人への請求を検討しましたが、6か月前に連帯保証人が亡くなっていたことが分かりました。連帯保証人の相続人に請求できるのでしょうか?
A

この事例の場合、残念ながら連帯保証人の相続人へは請求できません。

個人の連帯保証人の極度額は、連帯保証人死亡時にも元本が確定します(改正民法465条の4第1項第3号)。

言い換えると、連帯保証人の相続人は、連帯保証人死亡後に発生した未払賃料や汚損・破損等については責任を負いません。

あくまでも、連帯保証人の生前に発生した未払賃料や汚損・破損等について責任を負うだけです(この場合でも、相続放棄が行われた場合、放棄した相続人に対する請求はできません。)。

この事例は、6か月前に連帯保証人が死亡し、その後、直近2か月で賃料未納が発生したというケースです。死亡後に発生した賃料未納ですので、連帯保証人の相続人は責任を負いません。

連帯保証人死亡に備えた事前の対処として、更新のタイミングで欠かさず連帯保証人の状況を確認しましょう。

また、連帯保証人が死亡した場合には、賃貸人に通知すべきことを契約書上明記しておくことも必要でしょう。

5 事業用物件の個人保証の場合、契約時の情報提供が必要です

Q
当社は自社ビルにて、事業用物件の賃貸経営を行っています。
極度額の規制以外に、連帯保証契約の締結時に気を付けた方が良いことはありますか?
A

事業用物件において、テナント(賃借人)が「個人」に連帯保証契約の締結を委託する場合、

テナントは連帯保証人に対し、以下の情報提供を行う必要があります(改正民法465条の10第1項)。

  1. 財産及び収支の状況
  2. 賃貸借契約の債務以外の債務の有無並びにその額及び履行状況
  3. 賃貸借契約における債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容

詳細は割愛しますが、事実と異なる情報提供が行われたことを、賃貸人が知り得た場合、連帯保証契約が取り消されて請求できなくなるリスクがあります(改正民法465条の10第2項)。

そのため、賃貸人としても確実に情報提供が行われる仕組みを作る必要があります。

例えば、貸借対照表や損益計算書などの書類を連帯保証人に示したことを書面で記録化することなどが考えられます。

6 連帯保証人からの問い合わせに対応しましょう

Q
連帯保証人から入居者の家賃未納の有無について問い合わせがありました。
入居者のプライバシーに関わることなので回答を控えることも考えています。
回答してよいのでしょうか?
A

回答してください。

賃借人から委託を受けた連帯保証人から請求があった場合、賃貸人は、連帯保証人に対し、賃料など賃借人の債務全ての不履行の有無、残額、弁済期到来済みの金額に関する情報を提供しなければならないとされています(改正民法第458条の2)。

ご質問の回答に応じない場合、改正民法第458条の2に定められた情報提供を怠ったことになります。

なお、この情報提供を怠った場合の効果については明文の規定がなく、本記事執筆時点では裁判例の集積を待つしかありません。

ただし、避けることが容易なリスクは避けるに越したことはありません。家賃未納の有無は回答しましょう。

7 まとめ

連帯保証人に関する規制は、2020年4月1日の民法改正により複雑になりました。

不安がある方は、是非、オーブ法律事務所へのご相談をご検討ください。

※2023年1月執筆当時の情報を前提としたものです。

本記事の記載内容に関して当事務所・所属弁護士が何らかの表明保証を行うものではなく、閲覧者が記載内容を利用した結果について何ら責任を負いません。

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