ペット禁止特約の違反を理由とした明渡し

アパートやマンションの賃貸借契約には、ペット飼育禁止の特約が設けられていることがあります。

この記事では、特約に違反した入居者に退去を求めることができるかを解説していきます。

1 ペット飼育禁止の特約に違反した入居者を退去させることができる場合

Q
私は賃貸マンションのオーナーです。
私のマンションは清潔感を売りにしており、ペット飼育禁止の特約を設けています。
特約に違反した入居者との契約を解除することができるのは、どういう場合でしょうか?
A

飼育中止要請を無視して賃借人が飼育を継続した場合、契約解除が認められる傾向にあります。

ペット飼育禁止特約違反を理由に賃貸借契約を解除するためには、単にペットを飼育しているだけではなく、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されていることが必要です。

判例(※)では、賃貸人側が飼育中止を要請したにもかかわらず、賃借人が飼育を継続した場合に、信頼関係破壊が認められる傾向にあります。以下に例を挙げます。

※法律用語では「裁判例」が正しいですが、単に「判例」とします。この後の本文も同様です。

犬猫等の飼育中止の申入れが無視され契約解除が認められた例

判決年月日

東京地方裁判所昭和59年10月4日判決

特約に反したペット飼育の状況など

  • 飼育頭数や大きさ等は認定されていないが、犬、猫等を飼育。
  • 賃貸人が犬猫の飼育をやめるよう申し入れたが、飼育が中止されなかった。
  • 賃貸人は犬猫の飼育をやめない限り契約を解除する旨の内容証明郵便を送付したが、飼育は中止されなかった。

コメント

飼育中止の申し入れにもかかわらず飼育が継続された点がポイントだと思われます。なお、飼育による実害の有無は考慮されていないようです。

フェネックギツネの飼育中止の申入れが無視され、契約解除が認められた例

判決年月日

東京地方裁判所平成22年2月24日判決

特約に反したペット飼育の状況など

  • 賃借人は、契約前からフェネックギツネ(小型の狐)を飼育しており、家族同然に愛着を持っていた。
  • 賃借人募集の条件にペット禁止の記載が無かった。
  • 賃借人は、契約時に小動物の飼育禁止の特約があることに気付いた。
  • 既に仲介業者に相当額を支払っていたため、契約締結を見送ることなく賃貸借契約を締結した。
  • 飼育判明後、賃貸人側が飼育停止を求めたが、賃借人は飼育を継続した。

コメント

フェネックギツネという小型の狐の飼育が問題となっています。

飼育中止を求めたにもかかわらず、飼育を停止しなかったことがポイントと考えられます。募集条件にペット禁止の記載が無かったことや、実害の有無は考慮されていません。

2 入居者がペット飼育禁止の特約に違反したのに明渡しができない場合

Q
ペット飼育禁止の特約に違反した入居者がいても賃貸借契約を解除することができないこともあると聞きましたが、どのような場合でしょうか?
A

(1)飼育中止の要請が未了の場合には解除が否定される可能性がある

解除を肯定した判例は、解除前に飼育中止の要請を行っています。

飼育中止を一度も要請せずに契約を解除することは難しいと思われます。

(2)実害が無い場合には解除は否定される?

簡裁判決で、飼育状態が衛生的で鳴き声などの実害も無い犬猫の飼育を許容したかのようなものがあります(東京北簡易裁判所昭和62年9月22日判決)。

一方、東京地方裁判所平成22年2月24日判決のように実害を考慮することなく契約の解除を肯定する判例もあります。

実害が生じていない場合であっても、解除をあきらめる必要は無いでしょう。

(3)オーナーチェンジ前の前賃貸人が飼育を許諾し、実害も無い場合に解除を否定した判例がある

ペット禁止特約が存在するにもかかわらず、オーナーチェンジ前の前賃貸人が小型犬の飼育を承諾していたという特殊な経緯がある事案が裁判で争いになりました。

オーナーチェンジ後の賃貸人が契約解除を主張しました。

しかし、裁判所は前オーナーの承諾があることや実害が無いことも考慮して契約解除を否定しました(東京地方裁判所平成18年3月10日判決)。

3 ペット飼育禁止特約の違反を理由とした明渡しを実現するためには

Q
当社は不動産管理会社です。
当社の管理物件の中には、ペット飼育禁止の特約が設けられているものがあります。このたび、特約に違反して、ペットを飼育している入居者の存在が発覚しました。
ペット飼育禁止特約違反の入居者を退去させるためには、どうすれば良いでしょう?
A

(1)まずは証拠収集をしましょう

ペット飼育禁止の特約違反が問題となるケースでは、ペット飼育の事実それ自体が争いになる事案もあります。

また、実害が存在する場合には証拠化するべきです。

まずは飼育の事実と実害の有無について、証拠収集を行いましょう。例えば、以下のような手段が考えられます。

  • 賃借人と貸室で面談の上、賃借人了承の下、ペットの飼育状況や、室内の損傷状況を撮影させてもらう
  • 他の物件居住者や近隣住民の協力を仰ぎ、ペット飼育の事実や、飼育による実害を説明する書面を作成してもらう
  • 他の物件居住者の協力を得て、ペットの鳴き声等を騒音計で測定している様子(日時を含むもの)をビデオカメラで撮影する

(2)いきなり契約を解除するのではなく、飼育中止の要望を行いましょう

判例では飼育中止の要望を無視して賃借人が飼育を継続した場合に、解除を肯定しています。

飼育中止の要望も口頭でやり取りするよりは、内容証明郵便にて通知することにし、要望を行った事実を証拠化しましょう。

その後、飼育を継続している事実も証拠化するようにしましょう。

(3)弁護士にも相談しましょう

賃借人が自己を正当化する主張を繰り返し、自主的な飼育中止や建物明渡しに至らないこともあります。弁護士を間に入れないと、解決が難しいかもしれません。

また、法的知識に疎いと、契約解除が認められるか否かの見通しも立て辛いかと思われます。

ペット飼育禁止特約に違反した入居者にお困りの方は、是非、オーブ法律事務所に法律相談の予約を入れてみてください。

なお、オーナー様からご相談・ご依頼を受ける必要がありますので、ご相談にあたっては、オーナー様のご同行をお願いします。

※2023年1月執筆当時の情報を前提としたものです。

本記事の記載内容に関して当事務所・所属弁護士が何らかの表明保証を行うものではなく、閲覧者が記載内容を利用した結果について何ら責任を負いません。

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