近隣迷惑行為を理由とした建物明渡

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1 近隣への迷惑行為を理由に契約を解除できる場合とは?

Q
近隣への迷惑行為を行っている入居者がいます。
早急に立退きを求めたいのですが、契約解除は認められるでしょうか?
A

具体的な迷惑行為の内容次第では、賃貸人と賃借人間の信頼関係が破壊されたとして、契約解除が認められます。

近隣迷惑行為を理由とした契約解除を認めた判例(※)を若干紹介します。

社会的に度を越えた迷惑行為の場合には、契約解除が認められる傾向にあります。

※最高裁以外の判決は「裁判例」と表記するのが正しいですが、単に「判例」と記載しております。

誹謗中傷の言葉を叫ぶ、うめき声を上げて叫ぶ、玄関ドアを何度も開閉させるといった行為について解除が肯定された事例

判決年月日

東京地裁令和3年11月17日判決

迷惑行為の内容など

  • 賃借人が、
    近隣居住者を名指しで誹謗中傷する言葉を叫ぶ、
    わけのわからないうめき声を上げながら叫ぶ、
    玄関ドアを何度も開閉させ、大きな物音を立てる、
    などの行為を繰り返した。
  • 賃借人が、誓約書(紹介された病院で受診・治療を行うこと、迷惑行為を行わないことなどを定めたもの)を提出していたのに、その後も長期間繰り返した。

コメント

近隣迷惑行為の事案は、近隣住民の方が、逆恨みを恐れて協力を拒むことがあります。

この判決では、近隣住民が迷惑行為について説明する陳述書の作成に協力しています。

これは勝因の一つと思われます。

深夜の暴言、通報、警告文の投函などについて解除が肯定された事例

判決年月日

東京高裁平成26年4月9日判決

迷惑行為の内容など

  • 賃借人が、
    雨戸の開閉や立ち話など日常生活上の音に反応して、深夜に怒鳴り散らす、頻繁に匿名を装って警察に通報する、保健所に連絡する、
    「犬の鳴き声がうるさい。損害賠償する。」などの警告文を記載したハガキやメモを近隣住民などの自宅のポストに度々投函する、
    夜中に玄関のドアや窓のシャッターを大きな音を立てて閉める、
    などの行為を行った。
  • 近隣住民などが、迷惑行為を具体的に指摘した要望書を作成し、16名連名で押印の上、警察・区役所に提出した。
  • 実際に隣室の住民が賃貸借契約を解約して退去した。

コメント

この判決の勝因は、近隣住民が団結して、要望書を提出するなどして、迷惑行為を立証する証拠ができたことにあるかと思います。

深夜に重低音の音楽を流すなどの迷惑行為について解除が肯定された事例

判決年月日

東京地裁令和元年9月27日判決

迷惑行為の内容など

  • 賃借人が重低音の音楽を深夜に何度も流すなどの迷惑行為を連日繰り返した。
  • 複数の入居者から苦情があったことを受け、賃貸人が注意関係の書面を配布した。しかし、改善が無く、一部入居者が退去した。
  • 賃貸人が隣室の協力を得て録音を行い、深夜の音楽を慎むよう注意した。しかし、賃借人は事実を認めず、他の入居者に苦情を入れ、より大きい音量で音楽を流した。
  • 問題の賃借人が警察に逮捕された時期があり、その間は苦情が無かった。
  • 退去した3部屋の入居者から、退去の原因が賃借人の行為であるとの申告を受けた。

コメント

隣室の協力を得る、騒音の録音を残す、退去者からヒアリングを行うなど、細かい証拠の積み重ねが功を奏した事案だと思われます。

貸室内に大量のゴミを放置したことについて契約解除が肯定された事例

判決年月日

東京地裁平成10年6月26日判決

迷惑行為の内容など

  • 再三の注意にもかかわらず、2年以上、貸室内に極めて多量のゴミをかなりの高さにまで積み上げたままにしていた。
  • 消防からゴミに火災発生の危険があると注意を受けたことがあった。
  • 更新時に、居室内のゴミ撤去・身だしなみ改善が更新の条件とされたことがあった。
  • 更新後もゴミの状態は悪化した。

コメント

貸室内のゴミが多少不潔であったとしても、契約を解除できません。

この判決では、再三の注意を行ってきたことが詳細に認定されています。

ゴミの放置に対しては、書面や写真にて証拠を残しながら、何度も賃借人に改善を促すことが重要になるでしょう。

2 迷惑行為があるのに契約を解除できない場合はどのような場合?

Q
迷惑行為があっても、退去が認められない場合があると聞きました。契約解除が認められないのはどういう場合でしょうか?
A

(1)証拠が無いと解除が認められないことがある

迷惑行為が存在するはずなのに、加害者はやった覚えがないと加害行為の有無を争ってくることがあります。迷惑行為の事実は、裁判では、賃貸人側が立証しなければなりません。証拠が無い場合、契約解除が認められないリスクがあります。証拠収集が重要となります。

(2)迷惑行為の程度や情状次第では解除が認められないことがある

解除が認められるためには、賃貸人と賃借人間の信頼関係が破壊されたと認められることが必要です。近隣迷惑行為による信頼関係破壊が認められるかは、違反行為の程度や情状次第となります。信頼関係破壊が認められなかった判例を若干紹介しますので、参考としてください。

料理中の失火について、契約解除が否定された例

判決年月日

大阪地裁平成8年1月29日

迷惑行為の内容など

  • コンロに天ぷら油の入った鍋をかけて、これを失念し、建物の一部が焼損し、消火活動によって水損した。
  • 賃借人側が費用を出して補修を行った。
  • 引き続き補修をさせてほしい旨の賃借人の通知に賃貸人が応答しなかった。
  • 賃料未払などの債務不履行は無かった。

コメント

失火は故意ではなく、死傷者もおらず、賃借人の対応も誠実であったことが考慮されていると思われます。

死傷者が生じた場合や、賃借人の事後対応が不誠実だった場合には、違った結論になった可能性もあるでしょう。

6歳の子供の問題行動について契約解除が否定された例

判決年月日

東京地裁平成27年2月24日判決

迷惑行為の内容など

  • 賃借人の6歳の長男が、他の居住者のドアにマニキュアを付ける、通路付近で大便を漏らす、通路付近に竹輪と納豆ご飯を放置するといった問題行動を起こした。
  • 警察へ通報され、賃借人は6歳の長男への監督を強めた。

コメント

子供の年齢が低いことや、問題行動の程度などが考慮されております。

問題行動の程度がより悪質だった場合には、違った結論になった可能性もあるでしょう。

3 さいごに

(1)証拠収集が非常に大事

迷惑行為が問題となる事件では、証拠収集が重要です。迷惑行為の加害者は、いざ退去を求められると「身に覚えがない」とシラを切ってくることが想定されるためです。例えば、以下のような手段で証拠収集を行いましょう。

  • 不動産管理会社に対し、日々の管理業務で発生したトラブルを記録した日報、メモの開示を要請する
  • 被害を受けた住民と連携の上、被害の録音や写真・動画の撮影を行う
  • 被害を受けた住民の方に、被害内容を記載した書面を作成してもらう

(2)近隣の方々との連携も必要

対応は近隣住民の方々との連携も必要となります。

近隣住民の方は、協力したら報復されるのではないかと協力に消極的かもしれませんので、丁寧なご説明と説得が必要になるかもしれません。

(3)放置するとオーナー様が責任を問われるリスクがある

賃借人が他の入居者の迷惑行為によって損害を被っているのにもかかわらず、賃貸人が、長期間何も行わずに放置してしまうと、被害を受けた賃借人に損害賠償義務を負うリスクがあります。

早期の対応を心がけましょう。

(4)弁護士に相談する

迷惑行為があったとしても家賃未納が無いのであれば、家賃保証会社は対応してくれません。

また、不動産管理会社が退去の交渉を行うことにも限界があり、そもそも非弁行為に該当するリスクがあります。オーナー様だけでの対応は難しい事件類型です。

お困りの場合には、是非、オーブ法律事務所への法律相談の予約を取ることをご検討ください。

※2023年1月執筆当時の情報を前提としたものです。

本記事の記載内容に関して当事務所・所属弁護士が何らかの表明保証を行うものではなく、閲覧者が記載内容を利用した結果について何ら責任を負いません。

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