期間満了による明渡しの流れ

高齢のため現住所での入居継続が難しいので賃貸中の建物に転居したい、陳腐化したアパートやマンションを建て替えたい。

しかし、入居者がいるので、どうしたらいいのか分からない。そのような悩みをお持ちのオーナー様はいらっしゃいますか?

この記事では、賃貸借契約の期間満了を理由として、賃貸人が、賃借人に対し、建物明渡を請求するための流れを解説します。

なお、この記事では、普通借家契約を前提とした解説を行います。

定期建物賃貸借契約を締結されている場合には、対応が異なってきますのでご注意ください。

期間満了による明渡しの流れの概要

期間満了を理由として、入居者の方々を賃貸物件から退去させる場合、以下のステップを踏みます。

  1. 正当事由を基礎づける事情の証拠固めを行う
  2. 退去先となり得る賃借物件の情報を収集する
  3. 期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新拒絶の通知を行う
  4. 入居者と交渉を行う/立退料の算定資料の用意を要請する
  5. 交渉で明渡を実現できなかった入居者に対しては訴訟提起を行う
  6. 裁判上の和解を試みる
  7. 和解が成立しない場合には判決を言い渡してもらう

以下、順番に解説していきます。

1 正当事由を基礎づける事情の証拠固めを行う

繰り返しになりますが、本記事では普通借家契約を前提とした解説を行います。

期間満了を理由に普通借家契約を終了させるためには、正当事由が必要とされます(借地借家法第28条)。

かみ砕いて言いますと、正当事由は、㋐賃貸人側の必要性と、㋑賃借人側の必要性を、諸要素を考慮しながら見比べ、賃借人側の不利益を補うだけの㋒立退料の提供があれば、認められます。

詳しくは、本ウェブサイトの「借家契約の更新拒絶における正当事由」という記事において解説していますが、㋐賃貸人側の必要性が不十分の場合、正当事由自体認められないことがあります。

また、仮に正当事由が認められても立退料が高額となる可能性があります。

また、㋐賃貸人側の必要性は、後述する更新拒絶時に備わっている必要があります。例えば、入居者との交渉が決裂して裁判になった後に、賃貸物件の建替計画を策定し、裁判の証拠として提出したとしても、裁判所は考慮してくれません。

そのため、更新拒絶前から、正当事由を基礎づける㋐賃貸人側の必要性の証拠固めを行っておく必要があります。

賃貸人が高齢で現住居での居住継続が難しく、賃貸中の物件に転居したいという事案では、以下のような証拠が挙げられます。

  • 賃貸人の居住継続を困難とする疾患を示す医師の診断書、カルテ
  • 賃貸人の要介護度の認定通知書
  • 賃貸人の現住所の平面図、写真
  • 賃貸人の現住所ではバリアフリー工事の施工が不可能であることを説明する建築士作成の報告書
  • 賃貸物件の平面図、写真
    陳腐化した賃貸物件の建替えをしたいという事案の場合では、以下のような証拠が挙げられます。東京地方裁判所平成27年9月17日判決では、耐震性の不足を理由とした建替の事案において、更新拒絶時点で、契約終了後に直ちに建替えに着手できるほどの具体的な建替計画があることが必要である旨判断しておりますので、建替計画の具体性は重要です。
  • ハウスメーカーやデベロッパー作成の建設計画書
  • 賃貸物件の修繕工事を施工した場合に要する費用の見積書
  • 客観指標(非木造建物であればIs値、木造建物であればIw値)の測定を含む耐震診断の報告書
  • 所轄官庁から老朽化に関して勧告や命令を受けている場合にはその通知書
  • 総勘定元帳や確定申告書など、現在の賃貸物件の賃料の状況を示す資料
  • 賃貸物件の近傍地域の賃料を示す資料

事案によって、異なり得ますので、弁護士からアドバイスを得ながら証拠収集を行う方が良いでしょう。

2 退去先となり得る賃借物件の情報を収集する

正当事由の有無を判断するにあたっては、賃借人に対する賃貸人の交渉態度も考慮されることがあります。

そこで、更新拒絶の通知に先立ち、退去先の候補となる賃借物件の情報も収集し、相手方に提示できるようにした方が良いでしょう。

また、更新拒絶前から退去先となり得る賃借物件の情報を収集しておけば、いざ裁判となった場合、退去先が無いという賃借人の反論を封じるのに役に立つ可能性があります。

なお、退去先の候補となる賃借物件の情報を収集するにあたっては、可能な限り、現状の物件と地域、用途、グレード等を同じものにした方が良いでしょう。

3 期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新拒絶の通知を行う

期間満了を理由として普通借家契約を終了させるためには、賃貸人は、賃借人に対し、期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新拒絶の通知を行う必要があります(借地借家法第26条第1項)。

この期間を過ぎてしまいますと、入居者の退去が実現できなくなるリスクがあります。期間を過ぎてしまわないように、細心の注意を払いましょう。

なお、正当事由の主張にあたっては、主張の一貫性が大事です。

例えば、正当事由を否定する事情の一つとして、裁判での主張が、協議段階などで主張されていなかった(主張が後出しだった)ことを指摘する裁判例として、東京地方裁判所平成24年1月20日判決が挙げられます。

そのため、更新拒絶通知の文面にも注意する必要があります。事案ごとに記載は異なりますので、弁護士に相談された方が良いでしょう。

4 入居者と交渉を行う/立退料の算定資料の開示を要請する

更新拒絶の通知後、入居者と具体的な交渉を行っていきます。

本ウェブサイトの「借家契約の更新拒絶における正当事由」においても触れましたが、裁判となった場合、極端な事案でない限り、立退料を支払わなければ、正当事由が認められません。

また、訴訟に移行した場合には、解決までの期間が長引きます。立退料の支払を要求された場合、支払を検討した方が良いでしょう。

しかしながら、立退料の算定にあたっては、入居者側だけが有している資料(例えば、設備投資に要した費用等)も参照する必要があります。そこで、立退料の金額を算定するにあたって必要となる資料の開示を賃借人側に要請します。

典型的なものとしては、直近の賃借人の決算書類のコピーなどが挙げられます。開示を受けた場合、賃貸人側の必要性や、賃借人側の必要性を加味して、立退料を算定し、賃借人に提示します。

賃貸人の提示する金額に対し、賃借人も対案を提示することが想定されます。

過剰な対案を賃借人が提示してくるようであれば、減額を要請することになります。

費用がかかりますが、不動産鑑定士に立退料の金額の調査を依頼することも考えられます(立退料の金額の相場観については、本ウェブサイトの「立退料の相場」の記事において解説を行っておりますので、ご参照ください。)。

立退料の金額について、協議が調うようであれば、明渡時期や立退料の金額、支払時期などを取り決めた書面の取り交わしを行い、明け渡しを実現させていくことになります。

5 交渉で明渡を実現できなかった入居者に対しては訴訟提起を行う

全く算定根拠を開示しないまま、法外な立退料を要求する賃借人が存在する場合や、明渡しに全く応じない賃借人が存在する場合などでは、交渉での明渡実現は困難です。

賃貸人としては、建物の明渡しを求める訴訟を裁判所に提起することが考えられます。

訴訟では、賃貸人側の必要性や、賃借人側の必要性、立退料の算定について、双方が主張を行います。

期日は1か月~2か月に1回程度のペースで開かれ、期日前に当事者が適宜、自己の主張を記載した書面を提出するという流れで進行します。

事案にもよりますが、訴訟提起から地方裁判所での判決まで、一般的には9か月から1年6か月程度の期間を要することになります。訴訟提起から地方裁判所での判決まで、3年以上を要する事案もあります。

なお、調停という手段もあり得ますが、執筆者の意見としては、賃貸人側の必要性について立証の見通しがつく案件であれば、調停よりも訴訟の方がお勧めです。

6 裁判上の和解を試みる

訴訟の途中でも、双方が条件面で折り合いがつくのであれば、裁判上の和解という手続にて、明渡しを実現することができます。

賃貸人・賃借人の双方の主張が煮詰まってくると、裁判所が判決になった場合の金額を見据えて、双方に裁判所が考える立退料を提示し、和解を勧めることがあります。

判決の場合には、後述するとおり、当事者双方から控訴が可能です。控訴の場合、明渡しまで、より長期間を要するリスクがあり、弁護士費用も追加となります。

これらを踏まえて、和解による解決を試みるか、裁判所に判決を言い渡してもらうかを考えていくことになります。

7 和解が成立しない場合には判決を言い渡してもらう

賃貸人の請求を認容する場合、立退料の支払と引換えに、賃借人へ明渡しを命じる判決を裁判所が言い渡します。これを引換給付判決と言います。

この判決が確定すれば、強制執行という手続を行い、強制的かつ合法的に、賃借人を退去させることができます。

ただし、強制執行を行うには、事実上、立退料を先に支払う必要がありますので、注意が必要です。

また、詳細は割愛しますが、賃貸人が望む立退料と異なる金額の立退料の支払を裁判所が命じることができるかという、司法試験でも頻出の法的論点があります。

弁護士に確認するべきでしょう。

ただし、第1審の判決言渡後、賃貸人・賃借人いずれも高等裁判所に控訴をすることができます。

この場合には、明渡しの可否や、立退料の金額について、高等裁判所が再度審理をすることになってしまいます。控訴審では、通常、5~7か月程度の期間を要します。

最後に

期間満了を理由とした建物明渡は、判例・裁判例が錯綜した分野です。

オーブ法律事務所では、期間満了を理由とした建物明渡の事案に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

※2023年1月執筆当時の情報を前提としたものです。

本記事の記載内容に関して当事務所・所属弁護士が何らかの表明保証を行うものではなく、閲覧者が記載内容を利用した結果について何ら責任を負いません。

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