賃料(家賃)の回収方法について

未払賃料を回収したいという賃貸オーナーの方はいらっしゃいませんか?

オーナーから未払賃料の相談を受ける不動産管理会社の方も珍しくないでしょう。

本記事では、未払賃料の回収方法をQ&A方式で解説します。

また、滞納額の増大を防止するため、早期の建物明渡を実現すべきこともご理解いただければ幸いです。

1 滞納発生直後の電話・SMS・メール・郵便・現地訪問

Q
私はアパートオーナーです。
家賃滞納が発生した場合、最初はどのような対応を行うべきですか?
A

まず、滞納発生翌日中に電話をして、家賃を支払うように催促しましょう。

電話に出ない場合も、時間をおいて電話をしましょう。SMSやメールも併せて送信しましょう。

翌日中に対応することがポイントです。

その後支払が無い場合には、郵便や現地訪問も交えて催促しましょう。

家賃は必ず遅れずに支払ってほしいという賃貸人の姿勢を見せることにより、賃借人の意識も感化され、家賃を支払ってくる可能性があります。

ただし、法律上の強制力があるわけではありません。滞納が解消されない方には別途の手段をとるべきでしょう。

2 内容証明郵便による回収

Q
当社は不動産管理会社です。
オーナー様から、入居者の家賃未納について、相談を受けました。
入居者に支払を催促する電話をかけていますが、入居者は言い訳ばかりするので回収ができません。
費用を抑えて回収する対応方法として、どのようなものがありますか?
A

賃料の支払を求める内容証明郵便を送付することが考えられます。

内容証明郵便とは、何時、いかなる内容の文書が誰から誰宛てに差し出されたかを郵便局が証明する機能を持った文書の郵送サービスです。通常のものとは異なる様式の書面にて配達されます。

配達された内容証明郵便を見た賃借人は心理的なプレッシャーを感じ、任意に未払賃料を支払う可能性があります。

プレッシャーを与えて自発的な支払を促す効果を狙ったものに過ぎず、強制的に賃借人の財産から回収できる法的効果を有するわけではありません。任意に支払わない場合には、法的手続を検討するべきでしょう。

なお、不動産管理会社自身が滞納賃料の回収を試みることは非弁行為の禁止(弁護士法第72条)に抵触する可能性があります。オーナーの方を弁護士にお繋ぎいただいた方がよろしいでしょう。

3 訴訟提起後の和解による回収

Q
内容証明郵便を送付しましたが、入居者が家賃を支払いません。
多少費用がかかっても家賃を回収したいのですが、どのような対応が考えられますか?
A

建物明渡と未払賃料の支払を求める訴訟を提起した後に、裁判上の和解により、未払賃料の支払を約束させることが考えられます。

例えば、

  1. 賃借人は貸主に対し賃借物件を2か月以内に引き渡す
  2. 賃借人は貸主に対し未払賃料を月額2万円の分割払で支払う

といったものです。

従来、真剣に対応してこなかった賃借人も、未払賃料の支払を内容とした和解を要望することがあります。

和解するべきか否かはケースバイケースです。

賃貸人のスタンスが、

  1. 絶対に退去を実現させたいというものなのか
  2. あくまでも賃料回収や経済的合理性を追求したいというものなのか

によっても異なります。

ご自身が最も納得のいく解決を弁護士と相談しながら検討していきましょう。

4 強制執行による回収

Q
私はアパートのオーナーです。
家賃の支払を怠った入居者に対し、貸室からの退去と家賃の支払を求める裁判を行いました。
入居者から満足のいく提案が無かったため、和解の話は早々にお断りしました。
裁判所は、貸室からの退去と家賃の支払を命じる判決を言い渡しました。
家賃を回収するには、どう対応すればよいですか?
A

強制執行で賃借人の財産から未払賃料を回収することが可能か検討するべきでしょう。

強制執行とは、裁判所が賃借人の財産を差し押さえた上で、お金に換え、配当を行い、未払賃料の回収を実現する手続です(正確には金銭執行といいますが、単に強制執行と呼びます。)。

強制執行で差押えができる財産は、預貯金、給与など様々です。

例えば、預貯金の差押えに成功すれば、金融機関から、差押時点の預貯金残高の払い戻しを受けることができます。

また、給与の差押えに成功すれば、賃借人の勤務先から、賃借人の給与のうち一定の割合のお金の振込みを受けることができます。

賃借人の属性・状況に応じ、どの財産を狙うかは、変わってきます。

強制執行申立てには、賃料支払を命じる判決や、賃料支払を約束した裁判上の和解が必要です。そのため、建物明渡と未払賃料支払を求める訴訟を提起することになります。

ただし、強制執行を行ったとしても、必ずしも未払賃料を回収できるとは限りません。回収できずに、要した費用が無駄になることもあります。

費用対効果を吟味しながら、どのような方策が良いのか考えるべきでしょう。

詳しくは、本ウェブサイトの「強制執行による賃料の回収について」をご覧ください。

5 支払督促・少額訴訟での回収?

Q
家賃未納の入居者がいます。
インターネットで調べると、支払督促や少額訴訟という手段があるようです。
これなら自分でも対応できそうですが、注意しておくことはありますか?
A

賃借人が既に退去している場合には、支払督促や少額訴訟で対応することが考えられます。

しかし、賃借人が退去未了の場合、支払督促や少額訴訟はお勧めできません。

建物明渡と未払賃料支払を求める訴訟を提起すべきでしょう。

支払督促の流れ・メリット

スムーズに進行すると、以下の流れで未払賃料回収のための債務名義を得て、強制執行を申し立てることができます。書面審査のみで行いますので、訴訟よりも簡易・迅速です。

  1. 賃貸人が支払督促申立書を簡易裁判所に提出
  2. 裁判所書記官が支払督促を発付
  3. 賃借人へ支払督促を送達
  4. 賃借人の異議が無いまま送達から2週間経過
  5. 賃貸人が簡易裁判所に仮執行宣言申立書を提出
  6. 裁判所書記官が仮執行宣言付支払督促を発付
  7. 賃借人へ仮執行宣言付支払督促を送達
  8. 賃借人の異議が無いまま送達から2週間経過

→ 未払賃料回収のための強制執行申立が可能

少額訴訟の流れ・メリット

60万円以下の金銭支払を裁判所にて求める手続であり、スムーズに進行すると、以下の流れで未払賃料回収のための債務名義を得ることができます。

1回の裁判期日で終結することが予定されていますので、通常の訴訟よりも簡易・迅速です。

  1. 賃貸人が訴状を簡易裁判所に提出
  2. 簡易裁判所が期日を指定
  3. 賃借人へ訴状副本・期日呼出状を送達
  4. 裁判所から賃貸人・賃借人に期日へ向けた準備の指示
  5. 簡易裁判所での期日
  6. 期日にて判決又は和解

支払督促・少額訴訟のデメリット

支払督促や少額訴訟を行ったとしても、建物明渡しの強制執行を行うことはできません。これが支払督促・少額訴訟のデメリットです。

賃借人が退去しない場合、結局、未納金額は膨らんでいきます。支払督促や少額訴訟では明渡しを実現することまではできません。

早期の明渡を実現して、未払賃料の増大を抑えることが肝要です。そのために、居住中の賃借人に対しては、支払督促や少額訴訟ではなく、建物明渡と未払賃料の支払を求める訴訟を提起した方が良いでしょう。

6 連帯保証人からの回収

Q
入居者自身から回収するのは色々とハードルがありそうです。
やはり連帯保証人から回収を図るべきなのでしょうか?
A

連帯保証人から回収を図る方が、賃借人本人からの回収を図る場合に比して、回収を実現できる可能性が高いと思料されます。

賃料を滞納する方は、多かれ少なかれ、経済的に困窮していることがほとんどです。賃借人本人からの回収は、結局、実現しないことが多いでしょう。

一方、連帯保証人の方には、未払賃料を支払えるだけの十分な財産がある場合もあります。そのせいか、連帯保証人の方も、真剣に賃料未払の問題に向き合い、早期に賃料未払に関する協議に応じることがあります。

連帯保証人の態度が頑なで、一切請求に応じないこともあり得ますが、そのような場合には、連帯保証人に対する訴訟提起を検討するべきでしょう。

なお、2020年の民法改正により、連帯保証人へ請求できる金額に上限を設ける等、細かいルールが設定されました。

詳しくは本ウェブサイトの「賃貸借契約の連帯保証人への請求について」をご覧ください。

7 まとめ:被害拡大前に迅速な建物明渡

未払賃料の回収方法としては、上記のとおり、

  1. 滞納発生直後の電話・SMS・メール・郵便・現地訪問
  2. 内容証明郵便による回収
  3. 訴訟提起後の和解による回収
  4. 強制執行による回収
  5. 連帯保証人からの回収

が考えられます。

どの手段も万能というわけではなく、メリット・デメリットがあります。賃料の回収が実現できないこともあり得ます。

そのため、賃料の滞納が複数月にわたるなど、滞納の長期化の兆候が生じた場合、迅速に明渡しを実現し、未納賃料の増大を防ぐことが最優先となります。

賃料の未納に悩むオーナー・不動産管理会社の方は、弁護士に一度相談してみてはいかがでしょうか。

※2023年1月執筆当時の情報を前提としたものです。

本記事の記載内容に関して当事務所・所属弁護士が何らかの表明保証を行うものではなく、閲覧者が記載内容を利用した結果について何ら責任を負いません。

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