賃料滞納を理由とした契約解除や明渡しを検討されているオーナー様、不動産管理会社の方は、いらっしゃいますか?
賃料滞納を放置すると、滞納金額が膨れ上がるリスクがあります。
しかし、賃貸借契約の解除は無制限に認められるわけではありません。
判例上、賃料滞納を理由とした契約解除が認められるためには、賃貸人と賃借人との信頼関係が破壊されることが必要です(最高裁昭和39年7月28日判決)。
例えば、従来賃料を滞納していなかった賃借人が1か月滞納しただけでは、賃貸借契約の解除は認められません。
本記事においては、信頼関係の破壊が認められる場合について解説します。
このページの目次
◆信頼関係破壊が認められる目安は3か月以上の賃料滞納
当社管理のアパートの入居者が家賃を滞納しています。
家賃未納期間が何か月程度になれば、契約を解除することができるのでしょうか?
一般的には、3か月間の賃料不払が継続した場合、信頼関係の破壊が認められ、契約を解除することができると説明されます。
賃料未払を理由とした契約解除の有効性を認めた近年の判例のうち、滞納総額が賃料約3か月分であったものの具体例として、以下が挙げられます。
- 東京地裁平成28年10月20日判決
- 東京地裁平成29年7月20日判決
- 東京地裁平成29年10月30日判決
- 東京地裁令和元年10月21日判決
- 東京地裁令和2年11月26日判決
- 東京地裁令和3年6月22日判決
- 東京地裁令和4年1月31日判決
- 東京地裁令和4年3月2日判決
※ 法律用語としては「裁判例」という呼び方が正しいですが、単に「判例」という言葉を用いております。
滞納額が3か月分未満でも解除はできる?
事案ごとの判断になりますが、滞納額が賃料3か月分未満でも解除できる可能性があります。弁護士に相談しましょう。
近年の判例では、滞納額が3か月分未満で契約解除を認めたものとして、以下が挙げられます。
- 東京地裁平成29年5月25日判決
賃借人が5か月間賃料を1万円減額したため、家賃保証会社が保証債務の履行として減額分を支払った。その後、賃借人に2か月間の家賃滞納があった。賃貸人が契約を解除し、裁判所は信頼関係破壊を認めた。
- 東京地裁令和元年12月19日判決
滞納賃料2か月分に至り、賃貸人が契約を解除し、裁判所は信頼関係破壊を認めた。ただし、賃借人が弁護士をつけておらず有意な主張を行えなかったと推察される事例。
- 東京地裁令和2年6月30日判決
平成29年1月から賃借人の賃料支払の遅れが常態化した。令和元年7月時点での滞納額が賃料3か月分に至り、賃貸人が全額を支払わなければ解除する旨通知した。しかし、賃借人が2か月分しか滞納額を支払わず、1か月分の賃料未払が未だ存在した。そこで、賃貸人が契約を解除し、裁判所は信頼関係破壊を認めた。
- 東京地裁令和3年11月30日判決
賃借人が、契約締結後1年も経たない時期から滞納を繰り返していた。滞納額が賃料2か月分に至り、賃貸人が滞納額を支払わなければ解除する旨通知した。しかし、賃借人は、毎月の賃料額の支払を行うのみで、滞納を解消しなかった。裁判所は信頼関係破壊を認めた。
- 東京地裁令和4年3月28日判決
賃借人が、第三者の会社に、賃借物件を本店所在地として登記することを許容していた。賃料等も2か月分滞納した。第三者の会社が表示を是正し、滞納も解消した。しかし、賃借人が、別の会社にも賃借物件を本店所在地として登記することを許容していたことが発覚し、1か月分の賃料等を新たに滞納した。賃貸人が誓約書の提出を求めていたが、賃借人は提出しなかった。賃貸人が契約を解除し、裁判所は信頼関係破壊を認めた。
3か月分以上の賃料未払が存在しても、信頼関係破壊が認められない事例がある
家賃滞納が発生した時の契約解除について、インターネットで情報を集めています。
信頼関係破壊が認められる一つの目安は3か月分以上の家賃未納であると、様々なサイトに書かれていました。
3か月分以上の家賃未納があれば、必ず契約を解除できるのでしょうか?
そうとは限りません。
3か月分以上の賃料未払があったとしても、信頼関係破壊が認められず、解除ができないこともあります。
3か月分以上の賃料未払があったにもかかわらず、契約解除が否定された近年の判例の具体例として、以下が挙げられます(契約解除が肯定された事例と比べると、数が少ないため、平成14年の判決まで遡りました。)。
- 東京地裁平成14年11月28日判決
3か月間継続した賃料未払があった事案で、契約解除を否定
- 東京地裁平成16年3月8日判決
賃料6か月分相当額以上の未払があった事案で、契約解除を否定
- 東京地裁平成20年4月9日判決
賃借人が約1年8か月、賃料を一方的に減額し、滞納額合計が賃料3か月分以上に至った事案で、契約解除を否定
- 東京地裁平成23年12月15日判決
賃借人が約1年4か月、賃料を一方的に減額し、滞納合計が賃料約6か月分に至った事案で、契約解除を否定
- 東京地裁平成28年6月9日判決
約7か月間継続した賃料の未払があった事案で、契約解除を否定
- 東京地裁平成28年8月9日判決
約4か月間継続した賃料未払や駐車場料金の未払があった事案で、契約解除を否定
- 東京地裁令和2年12月11日判決
借地の事案で、約6年間滞納を繰り返し、滞納額合計が賃料約8か月分相当額に至った事案で、契約解除を否定
- 東京地裁令和3年8月26日判決
滞納額が3か月と半月分の事案について、契約解除を否定
このような結論の違いが生じる理由は次に解説します。
信頼関係破壊が否定される要因とは?
当社は3か月以上家賃未納が継続した場合には、契約解除を行う方針としています。
事実、当社が経験した多くの案件では、3か月以上家賃未納が継続した場合、裁判所も契約解除を認めていました。
ところが、この記事を拝見し、3か月以上の家賃未納が存在する案件でも、契約解除が否定される例があると知りました。
どのような要因で契約解除が否定されているのでしょうか?
賃料未払を理由とした契約解除において、信頼関係破壊が否定される要因として、以下のものが挙げられます。
- 賃貸人の修繕義務違反を発端として、賃借人が賃料を一方的に減額した(若しくは支払を拒否した)
- 賃貸人・賃借人間のトラブルを理由として、賃借人が賃料を一方的に減額した(若しくは支払を拒否した)
- 賃借人が長期間滞りなく賃料を支払ってきており、滞納が発生したのは最近である
- 無催告解除特約があることを理由に、契約解除前に、賃貸人が賃料支払を催促しなかった
- 契約解除直後に、賃借人が滞納額を支払った
- オーナーチェンジの事実を賃借人にあえて通知しなかったなど、賃貸人側の落ち度で賃料滞納が発生した
- 賃借人の病気・高齢を理由に滞納が発生した
- 多額の資本投資を行っているなど、契約解除による賃借人の不利益が大きい
- 契約解除後の物件の活用方法が決まっていないなど、契約解除が否定された場合の賃貸人の不利益が小さい
- 賃貸人が契約解除後に賃貸借契約継続を前提とした和解交渉を賃借人と行った
契約解除を否定した判例の多くは、①~⑩で挙げた事情が、単に一つだけではなく、複数認められる傾向にあります。
判例の判断にもムラがあります。比較的緩く信頼関係破壊を認めた例もあれば、信頼関係破壊を容易に認めない例もあります。
信頼関係が破壊されていることについて、どれだけ説明・立証したかによっても判断が異なってくるでしょう。
そのため、①~⑩で挙げた事情があったとしても、まずは弁護士に契約解除の可否を相談した方が良いでしょう。
なお、家賃保証会社の代位弁済があったにもかかわらず、賃貸借契約を無催告で解除できるか否かについて、近時、最高裁が注目すべき判示を行っています。
最高裁令和4年12月12日判決は「連帯保証債務の履行があるときは、賃貸人との関係においては賃借人の賃料債務等が消滅するため、賃貸人は、上記遅滞を理由に原契約を解除することはできず、賃借人にその義務に違反し信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為があるなどの特段の事情があるときに限り、無催告で原契約を解除することができるにとどまる」と判示しています。
この判示の影響が今後どのように生じるのかは実務上注目すべきところです。
弁護士への相談のメリット
家賃未納を理由に解除できるか否かの判断にあたっては、色々な事項を考慮するようです。
弁護士に相談すれば、賃料未払を理由とした契約解除の可否について、事前予測できるのでしょうか?
弁護士に相談すれば、解除が認められるか否かの見通しがつく事案もあります。これは弁護士に相談するメリットの一つです。
解除が認められる公算が高い事案であれば、滞納額が増大するリスクを回避するため、早々に契約を解除するべきでしょう。
一方、判例の判断にもムラがある分野であるため、弁護士に相談したとしても、解除が認められるか判断が難しい事案もあるでしょう。
事前予測が難しい事案であれば、契約解除が否定された場合に弁護士費用や諸費用が無駄になるリスクを踏まえて、契約解除を実行するか否かを決めることになります。独りで決断することは難しいと思われますが、弁護士に相談すれば、弁護士も一緒に方針を考えます。これも弁護士に相談するメリットの一つでしょう。
オーブ法律事務所では、賃料滞納を理由とした契約解除に力を入れております。
お困りの場合には、法律相談の予約をご検討ください。
※2023年1月執筆当時の情報を前提としたものです。
本記事の記載内容に関して当事務所・所属弁護士が何らかの表明保証を行うものではなく、閲覧者が記載内容を利用した結果について何ら責任を負いません。