家賃・賃料滞納による建物明渡を実現するまでの期間

Q
当社は不動産管理会社です。当社の管理物件で家賃滞納が発生しています。
オーナー様からは、貸室から入居者を退去させたいが、どのくらいの時間がかかるのか、質問を受けています。どのように回答すれば良いでしょうか?
A

大きく二つに場合分けしてお答えします。

1 賃借人が賃料滞納の事実を認め、退去するべきことも理解している場合

賃料滞納の事実を賃借人が認めている場合、一般論としては、ご依頼から明渡しが実現できるまで、4~6か月程度の期間を要するでしょう。

事案の具体的事情によっては、明渡しまでの期間が短くなることもありますし、より長い期間を要することもあります。

明渡しまでのフロー

建物明渡に至るまでは、内容証明郵便発送、訴訟提起などの手順を踏むことになります。各段階において要する期間は、概ね以下のとおりです。

建物明渡しの流れについては、本ウェブサイトの「賃料滞納による建物明渡し請求の流れ」もご覧ください。

①内容証明郵便発送・訴訟提起から第1回期日まで

1か月半~2か月半程度

②第1回期日から判決まで

1~3週間程度

③判決言渡から明渡しの催告まで

2~5週間程度

④明渡しの催告から明渡しの断行まで

3~4週間程度

明渡しまでの期間が長くなってしまう場合

なお、以下のようなケースは、一般の事案と比べ、明渡しまでの期間が長くなってしまいます。

ア 賃借人が裁判所からの書類を受領しない場合

貸室の現地調査を行い、賃借人が貸室に入居中であることを示す報告書を作成して裁判所に提出する必要があります。

複数回の調査を要請されることもあり、1~3週間程度の期間を費やすこともあり得ます。

イ 賃借人が行方不明の場合

貸室の現地調査を行い、賃借人が行方不明であることを示す報告書を作成して裁判所に提出する必要があります。

そして、公示送達という、貼り紙を裁判所の掲示板に貼るという方法にて賃借人を裁判に呼び出したという体を取り、訴訟と強制執行にて明渡しを実現することになります。

この場合も、現地調査の関係で、1~3週間程度の期間を費やすことになります。

なお、無断で荷物を撤去したいという誘惑に駆られがちですが、これをやってしまうと、違法な自力救済を理由に、損害賠償請求を受けるリスクがあります(詳しくは、本ウェブサイトの「入居者が行方不明・夜逃げした場合の対応」をご覧ください。)。

ウ 賃借人が貸室で店舗を経営しており、代替店舗の確保まで明渡しの猶予を求めてきた場合

ケースによっては裁判所も賃借人に同調して、判決をすぐに言い渡さず、期日を続行することがあります。

この場合、期日を1回続行するごとに2~5週間程度明渡しまでの期間が延びてしまいます。弁護士としては、裁判所に判決を早期に言い渡すよう要請していくことになります。

2 賃借人が賃料滞納の事実や契約解除の法的有効性を争い、退去を拒絶している場合

賃借人が賃料滞納の事実や契約解除の法的有効性を争い、退去を拒絶している場合、ご依頼から明渡しまで、一般論として、9か月~1年半程度の期間を要します。

明渡しまでのフロー

賃借人の中には、「賃料は支払っているはずだ」、「賃料減額の約束をしたはずで、減額後の金額を支払っているのだから、賃料滞納は無いはずだ」、「大家が部屋を直してくれないため、賃借人側で部屋を修理して費用を支払い、家賃と相殺したので、家賃は払わなくていいはずだ」といった主張を行う者がいます。

このパターンでも、訴訟を提起して明渡しを目指します。訴訟においては、賃料未払の事実を主張立証し、解除が有効であることを法的に説明する必要があります。

具体的には、裁判の期日に先立ち、自己の主張を説明する準備書面を提出するとともに、証拠を提出します。期日では、提出した準備書面・証拠の内容に関する裁判所からの質問や要望に応答します。

期日を幾度も繰り返し、互いの主張が出尽くした段階で、当事者や証人の尋問を裁判所で行う期日を設けます。尋問の2~3か月後に判決が言い渡されます。

審理の回数

裁判の期日は1か月~1か月半に1回程度のペースで進行します。

審理の回数は、事案次第ですが、通常、6回から10回程度は必要と考えられます。

そのため、一般論として、争いがある事案は、明渡し実現まで、9か月~1年半程度の期間を要します。

裁判の中途で、建物明渡しを実現する内容の和解が成立すれば、審理の回数が少なくなる方向に働きます。

一方、和解に至らず、判決が言い渡され、賃借人が高等裁判所に控訴した場合には、明渡実現までの期間が9か月~1年半では済まなくなる可能性が高いです。

弁護士としては、早期に和解を実現できるよう努力すると共に、どこを妥協して、どこを妥協しないかを、慎重に見極めていくことになります。

※2023年1月執筆当時の情報を前提としたものです。

本記事の記載内容に関して当事務所・所属弁護士が何らかの表明保証を行うものではなく、閲覧者が記載内容を利用した結果について何ら責任を負いません。

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