賃料滞納による建物明渡請求の流れ

大まかな賃料滞納による建物明渡請求の流れ

一般的には、

  1. 信頼関係破壊
  2. 解除通知配達
  3. 訴状提出
  4. 第1回期日
  5. 判決又は和解
  6. 任意退去しない場合には強制執行

という流れで進行します。

場合によっては占有移転禁止の仮処分が必要になりますが、末尾で解説します。

以下の「賃料滞納による建物明渡請求の流れ」をご覧ください。

各トピックごとに解説していきます。

① 信頼関係破壊(目安:賃料滞納3か月以上)

賃料未払による建物明渡を行うためには、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されている必要があります。

単に1か月賃料を滞納しただけでは信頼関係破壊は認められません。

信頼関係破壊が認められるには、少なくとも3か月以上の賃料未払が必要です。

詳しくは本ウェブサイトの「家賃・賃料滞納を理由とした契約解除ができる場合」をご覧ください。

② 解除通知配達

信頼関係破壊が認められた場合、賃貸人は賃借人との賃貸借契約を解除することができます。ただし、ただ黙っているだけで自動的に契約が解除できるわけではありません。

賃貸人は解除の意思表示を賃借人に到達させる必要があります。

そのために、賃貸人は、賃貸借契約を解除する旨を明記した内容証明郵便を発送することになります。

なお、賃借人が行方不明の場合には、内容証明郵便送付の手続を行うことなく、直ちに訴状提出を行います。

③ 訴状提出

解除通知が配達されれば、賃貸人と賃借人の賃貸借契約は終了したことになり、賃借人は賃貸人に目的物を返還する法的義務を負います。

しかしながら、賃借人は法的義務を無視して目的物たる貸室に居座り続けることが想定されます。これを強制的に退去させるため、建物明渡を求める訴訟を提起します。

ただし、民事訴訟は放っておけば勝手に始まるわけではありません。

賃貸人の方から、裁判所に対し、裁判を始めるようアクションを起こす必要があります。具体的には、訴状と呼ばれる書面を作成し、必要書類と共に、裁判所に提出する必要があります。

裁判所は訴状を受理した後、その形式的な記載事項等の審査を行います。そして、裁判所は、形式的な補正事項があれば賃貸人に補正を促し、補正事項がなくなれば、第1回期日を指定します。

④ 第1回期日

裁判所の混雑具合にもよりますが、スムーズに進行すれば、訴状提出から1か月から2か月後に第1回期日が開かれます。弁護士に依頼いただいた場合、弁護士のみが出席します。

賃貸人ご本人が出席する必要はありません。

第1回期日に先立ち、裁判所は賃借人に対し、第1回期日に出席するよう呼出状の送達を行います。そこで、賃借人が出席するか否か等により、その後の裁判所の対応は変わってきます。

ア 賃借人が欠席した場合

賃借人が欠席した場合、通常、裁判所は審理を終結させ、約1~2週間後に判決言渡期日を定めます(「約1~2週間」と書いてはありますが、裁判所の混雑状況にもよります。)。

そして、裁判所は、賃貸人主張の事実関係を基に、建物明渡しが認められるか判断の上、判決期日に、建物明渡を命じる判決を言い渡します。

イ 賃借人が出席し、賃貸人の主張を全て認めた場合

出席した賃借人が賃貸人の主張を争わない場合、裁判所としては賃貸人の主張する事実関係を基に建物明渡の可否を判断してよいことになります。

ただし、通常、裁判所は和解の意向の有無を聴取します。

そのため、弁護士としては期日に先立ち賃貸人と協議の上、和解するか否かの方向性を決めておきます。

和解する価値のあるケースもありますので、詳しくは本ウェブサイトの「賃料(家賃)の回収方法について」をご覧ください。

仮に、和解が成立した場合には審理は終結することになります。

もちろん、和解するか否かは任意です。和解を希望せずに、建物明渡の判決を求めることもできます。

当事者のいずれかが和解を求めない場合、裁判所は審理を終結し、約1~2週間後に判決言渡期日を定めます。

ウ 賃借人が出席し、賃貸人の主張を争った場合

出席した賃借人が事実関係を争うこともあります。

例えば、賃料を減額する約束があったので減額した金額を支払っていた、賃貸人が部屋を修理してくれなかったから代わりに修理して賃料から控除した等です。

この場合、賃借人の主張が法的に認められるかを審理しなければならないので、第1回期日だけでは訴訟は終了しません。1か月~1か月半に1回程度期日を開き、賃貸人・賃借人双方の主張の交換を行います。

審理が熟した段階で、裁判所は審理を結審し、判決を言い渡します。途中経過で、賃貸人・賃借人が和解することもできます。

弁護士としては、事前に賃借人の主張を把握の上、できる限り訴訟が早期に終結するよう証拠や主張の把握に努めていくことになります。

⑤ 判決、又は、建物明渡を含む和解(訴訟の終結)

(1)判決

㋐賃借人が欠席した場合、㋑賃借人が出席し、賃貸人の主張を全て認め、和解も成立しなかった場合には、第1回期日から約1~2週間後に、裁判所は建物明渡を命じる判決を言い渡します。

㋒賃借人が賃貸人の主張を争った場合は、1か月~1か月半に1回程度の期日を繰り返すことになります。審理が熟した段階に至り、賃貸人の主張が認められれば、裁判所は建物明渡を命じる判決を言い渡します。

判決期日に賃貸人・賃借人が出頭する必要はありません。

判決は書面にて送達されます。

賃借人は、判決の送達を受けた翌日から2週間以内であれば控訴することができます。

ただし、第1審の段階で、㋐賃借人が欠席した場合や、㋑賃借人が出席し賃貸人の主張を全て認めた場合であれば、賃借人が控訴してくる可能性は低いでしょう。

賃借人が判決の送達を受けた翌日から2週間経過すれば、判決は確定し、賃借人は控訴して判決を覆すことはできなくなります。そして、賃貸人は強制執行により、賃借人を強制的に退去させることができます。

なお、判決が言い渡された段階から、弁護士は、賃借人に対し、任意退去の意向の聴取に努めます。

判決言渡後、賃借人が直ちに任意退去すれば、明渡を実現できたことになります。

任意退去の意向が無い、若しくは、待ってほしいといった弁解をするのであれば、強制執行を行うべきでしょう。

※第1審の段階で、賃借人が賃貸人の主張を争っていた場合、賃借人が控訴してくる可能性も否定できません。控訴された場合、ここでは説明を割愛しますが、控訴審にて審理が継続することになります。

(2)建物明渡を含む和解

訴訟提起後、賃貸人と賃借人との間で、建物明渡を内容とする和解が成立することがあります。

和解は賃貸人と賃借人の両者が納得し、双方合意すれば、訴訟のほとんどの段階で成立させることが可能です。

この場合、建物明渡までの猶予期限を何月何日までと設定することになります。

和解経過次第ではありますが、賃借人自身も建物明渡に納得し、和解成立に合意したわけですので、判決の場合と比べると、賃借人が任意に退去することが期待できます。

賃借人が猶予期限までに退去しない場合には、強制執行を行うことになります。

⑥ 任意退去しない場合には強制執行

訴訟終了後も賃借人が退去しない場合には強制執行を行うことになります。これは執行官と執行業者が臨場の上、賃借人を強制的に退去させる手続です。

強制執行の流れについては、本ウェブサイトの「滞納者が判決に従わず退去しない場合」にも掲載しておりますので、適宜ご参照ください。

(1)強制執行申立書提出

必要書類を添えて、裁判所に強制執行申立書を提出します。

(2)明渡の催告

強制執行申立書提出から2週間以内に、執行官と執行業者、立会人、弁護士が貸室に臨場します。執行官は明渡の期限を区切って、賃借人に退去を要請します。

明渡期限内に賃借人が自主的に退去しなければ、強制的に退去させられることになります。

これを明渡の催告と言います。いわば、賃借人に自主退去の最後のチャンスを与えるわけです。

(3)明渡の断行

明渡の催告にて区切った期限内に賃借人が退去しなければ、明渡の断行が行われます。執行官が賃借人に退去を命じ、それでもなお賃借人が抵抗する場合には警察が動くことになります。荷物は執行業者が搬出します。

明渡の断行に至った場合には相当程度の費用が生じてしまいます(詳しくは本ウェブサイトの「建物明渡の強制執行に要する費用」を参照ください。)。

可能であれば、明渡の断行に至る前に自主的に退去させたいところですが、賃借人が最後まで抵抗して、明渡の断行に至る場合も珍しくありません。

しかしながら、賃借人を放っておいたとしても、滞納金額は膨れ上がっていきます。

最後まで賃借人が抵抗するようであれば、賃貸人としては覚悟を決めて明渡の断行に臨みましょう。

占有移転禁止の仮処分

ところで、判決前に貸室の入居者が変わっていたら、どうなるでしょうか?

例えば、賃借人Aが住んでいたのに、契約解除後に無断でAが退去して代わりにBが住み始め、Bが入居していることを知らないまま、Aを被告として訴訟を提起し、判決が言い渡されたという場合です。

この場合、判決が確定したとしても、あくまでもAを強制的に退去させる効果しかありません。Bを強制執行で退去させることはできないのです。

勿論、改めてBを被告として訴訟を提起すれば、当然、建物明渡は認められますが、二度手間になってしまいます。

このような事態を事前に防止する策として、占有移転禁止の仮処分が挙げられます。

占有移転禁止の仮処分とは、訴訟に至る前に、賃借人以外の他人に賃借物を使用させることを禁止する裁判所の命令です。この命令後に貸室を使用し始めた者がいたとしても、賃借人に対する明渡の訴訟にて勝訴すれば、強制執行にて退去させることができます。

占有移転禁止の仮処分を裁判所に出してもらうためには、賃料1~3か月分程度の保証金を裁判所に納める必要があります。オフィス・店舗の場合、保証金が賃料2~5か月分程度になる可能性もあります。

保証金は、万が一、訴訟にて賃貸人が敗訴した場合、賃借人に生じた損害を賄うことを目的として納めます。賃貸人が勝訴すれば保証金は戻ってきます。

占有移転禁止の仮処分は必須の手続ではありませんが、貸室に賃借人以外の不特定多数が出入しているケース、賃借人が暴力団関係者であることが疑われるケース、知らない会社が貸室を使用しているなどの無断転貸が疑われるケース等では、申立てを検討するべきでしょう。

さいごに

建物明渡は以上のとおり、裁判手続や強制執行を必要とすることが珍しくありません。

賃貸人ご自身で手続きを行うのは大変でしょう。

賃料滞納でお困りの場合には、是非オーブ法律事務所へのご相談をご検討ください。

※2023年1月執筆当時の情報を前提としたものです。

本記事の記載内容に関して当事務所・所属弁護士が何らかの表明保証を行うものではなく、閲覧者が記載内容を利用した結果について何ら責任を負いません。

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